これからも末永く。ロキオ誕生日会の模様
クリスマス、大晦日、年越し。
みなさんいかがお過ごしだろうか。
わたしはもうかれこれ五回目のカナダでのクリスマス、年越しになる。
トロントではこの時期、すれ違う人や店の店員など顔見知りでなくても「Merry Christmas!」と言われる。最近では文化や宗教を考慮して、メリークリスマスと言わずに「Happy Holidays(よい休暇を)!」という人も増えている。こういうのを笑顔で言われるとこちらも顔がほころぶ。白髪のおじいちゃんとおばあちゃんがおそろいのUgly Christmas Sweater(ダサいクリスマスのセーター)を着て歩いているのを見た日にはもう可愛くて悶え狂う。クリスマスシーズン、+カナダだからというのもあるのだろう、とにかく赤いセーター赤い帽子、赤いマフラーに靴下。どこかしらに赤。
待ちゆく人たちはみな、友人や家族へのプレゼントやパーティのためのワインやシャンパンを両手いっぱいに抱えて通り過ぎていく。
わたしはこの時期のトロントが好きだ。
さてそんな中。
クリスマスの少し前にロキオは誕生日を迎えた。
わたしは友人たちを巻き込んでサプライズパーティを開いた。
メインのプレゼントはNintendo Switchというゲーム。10数人の友人たちとわたしで少しずつ資金を出し合って買った。
ロキオとわたしは、テレビゲームを巡って少し苦い思い出がある。
わたしとロキオが付き合いたての頃。今から3年前くらいだろうか。ロキオの某友人がゲーム好きで、その時期のロキオは夜な夜な仕事の後に彼と対戦ゲームをしていた。
わたしは子どものころ、両親からテレビゲームを買ってもらえなかった。それが彼らの教育方針で、一度トイザらスで泣きわめいたこともあったけれどそれでもダメだった。
以来ゲーム=人を堕落させるもの、ゲーム=時間の無駄というような価値観が知らないうちに構築されていて、それもあってわたしは暗闇で夜な夜なパソコンに向かうロキオに苛立っていた。
その日ロキオは朝の5時までゲームをしていた。わたしは次の日仕事だったのに、音と苛立ちで全く眠れず、ついに朝ぶち切れた。ほとんどキレることのないわたし。
でもあの時は本当に怒っていた。
「This is ridiculous(こんなのありえない)!!」
怒鳴って家を出た。
それ以来、ロキオはゲームをするのをぱたりとやめた。
結婚する前に日本に来た時しれっとDS?的なもの(厳密には違うらしいがわたしにはわからない)を買っていたが、わたしといる時はしないようにしていた。結婚後、カナダに戻ってきてから2人暮らしを始めた後も、全くしていなかった。
それからさらに数年たった今年冬。
共通の男友達の一人から「クリスマスのサプライズプレゼントはNintendo Switchにしたいんだけど、妻のあなたの了承を得ようと思って」と連絡が来た。そんなものをほしがっていたのか!と単純に驚いた。そんなそぶり、ひとっつも見せないんだもん。
わたしはサッとゴーサインを出した。ここ数年でわたしは妻として、女としてだいぶ進化した(これについてはまた別記事で書きたい)ので、むしろ「任天堂ほしいのにわたしに一言も言わないなんて、まだちょっと後ろめたさがあるんだな。可愛いやつ。。。」と思っていた。みんなで協力して彼の願いを叶えてあげることにした。
着々と準備が進む中、彼の誕生日はいよいよ一週間後。その日わたしたちはバブルティー(日本でいうタピオカミルクティー)屋へ行った。注文した後、ドリンクを待っている時にロキオが横にある箱をじっと見ていた。
箱には「クリスマスに何が欲しい?抽選であなたのほしいものをプレゼント!」という内容の記述があった。自分のEメールアドレスと欲しいものを書いて箱に入れると、抽選でそれが当たるらしい。
ロキオはさっと申し込みカードをとり、何やら書き始めた。しかしわたしに見られたくないのか、わたしに背を向けて猛スピードで書いている。そしてサッと箱の中に入れた。
何もなかったような顔をしてカウンターでドリンクを受け取るロキオ・・
しかしわたしはこの目で見た。
紙上の彼の走り書きの文字。「Nintendo Switch」。
わたしはにやにやを必死にこらえた。・・・だめだ、今笑っては!
帰り道タピオカを吸い込みながら、わたしは「なんて可愛いんだろう」と彼に思いを馳せていた。吸い込むふりをしてにやにやを抑えた。
わたしに怒られたくないけど、ほしい気持ちはおさえられない・・・!
そんな小学生男子みたいなロキオが愛おしくて仕方ない。
誕生日にそれがもらえるなんて思いもしないロキオは、降ってくる雪の結晶を追いかけて集めるのに夢中になっていた。
パーティ当日。
友人たちはノート一冊のサイズくらいで済むものを、わざわざ電子レンジでも入っているんじゃないかというくらい大きな箱にNintendo Switchを入れ、メインのプレゼントにたどり着くまでに一体何分かかるんだというような手の込んだ仕掛けを何重にも作っていた。
たくさんの友人たちに囲まれ、彼らの用意したおばかな仕掛けにその都度がっかりしたり大笑いしたりしながら、ロキオはやっとお目当てのギフトに辿り着いた。
嬉しそうなロキオ。そこにいるみんな、笑顔だった。
実はNintendo switchとは別に、わたしは彼にもうひとつのプレゼントを用意していた。
それは友人たちと家族からのメッセージが載ったスクラップブック。
「ロキオを好きな理由3つ」「ロキオの夢への応援メッセージ」「ロキオとの一番の思い出」など、6つの項目を彼の友人たちと彼の家族、わたしの家族に考えて送ってもらい、わたしがノートにひとつひとつレイアウトして作った。
今年はいろいろな意味で彼にとっては節目の年。
小さいころから苦難の連続だった彼。辛いスタートだった新婚生活。
でもいまやっと、夢に向かうためのスタートラインが見えてきている。
そんな彼を支えている友人たちや家族、そしてわたしからどうしても特別なサプライズをしたかったのだ。
これからどんなに大きな夢を描こうとも、あなたならやれる。そしてそれを信じて応援してくれる仲間や家族がここにはいる。今本当の意味でのスタートラインに立とうとしている彼に、どうしてもそれを伝えたかった。
長いパーティが終わり、みんな帰っていった。
ロキオはわたしの目を見て言う。
「僕には素敵な仲間がいる。
そして何より、僕をこんなに思ってくれる奥さんがいる。ありがとう。」
時計は2時を回っている。
スクラップブックに並ぶたくさんのメッセージを、ロキオは一文字一文字指でなぞりながら読んでいた。
作戦大成功。
布団に入り、ほっと息をつく。一息ついて、天井を見つめる。
彼が彼である以上、わたしにできることなら何でもやりたい。
ふと、強くそう思った。妙に目が冴えていた。
ロキオはすでにいびきをかいている。
わたしはきっと、ずっとこの人と一緒にいるんだろうな。
はっきり、思う。
これからもよろしくね、ロキオ。