ゆかばん脳内散歩

カナダ暮らし写真家の日常と思考録。

ロキオの温泉デビュー記

ロキオと2人で日本を訪れたのは、かれこれ3年近く前だ。

 

3か月間の日本滞在中、ロキオは人生初の温泉デビューを果たした。

 

 

一応説明しておくと、カナダには温泉どころか「湯につかる」という文化がそもそもなく、わたしもこちらで暮らし始めてからはほとんど毎日シャワーを浴びている。

 

冬にはー20度を平気で超えるトロントの冬。

日本人のわたしとしては、

「カナダ人たちよ。君たちこそ毎日湯船につかって冷えた体を温めるべきだろう?」

と思うのだが、彼らはササッと15分程度でシャワーを済ませて

何食わぬ顔で次の日も雪の中仕事へ向かうのだ。

 

 

ロキオもその中の一人で、小さい時にかろうじて湯船に浸かった経験はあるものの、

銭湯と温泉は日本でが初めてであった。

 

 

わたしたちはその日、京都旅行を経て夜行バスで早朝に福岡に到着した。

福岡から次の目的地へ行くのに数時間空いたので、疲れていたわたしは近くの銭湯に行ってリフレッシュしようと彼に提案した。

 

 

「銭湯って、みんな素っ裸で同じバスタブに入るやつでしょ?」

 

 

あまり乗り気でない彼をよそに、わたしは1年半ぶりの銭湯!!とるんるん。

銭湯に着いてフロントでタオルを借り、廊下を進むとついに女湯と男湯の分かれ道に。

彼には事前に一通りロッカールームの使用の手順や銭湯でのマナーを彼に伝えていたのだが、彼はのれんの前で不安そうにわたしを見つめている。

 

 

「こんな小さなタオルじゃ何も隠せないよ。」

 

 

フロントのお姉さんが貸してくれたタオルを右手に、大きなロキオは不安そうに言う。

 

「別に隠さなくていいんだよ。それは身体を洗ったり顔を拭いたりする用だから。」

 

「でも・・・。」

 

「ハイ、がんばって!じゃあね~」

 

わたしはわざと彼を置き去りにし、女湯ののれんをくぐった。

 

 

 

あ~気持ちよかった。

久しぶりのお風呂に癒されたわたしはコーヒー牛乳を一気飲みした後、畳の敷いてある広場でゆっくりくつろいでいた。

暑い場所が苦手なロキオなので長くても20分程で出てくるだろうと思っていたのに、1時間経った今もまだ広場に現れない。

 

それから15分くらい経った頃、やっと彼が帰ってきた。

わたしは「なんでそんなに遅かったの?」と聞いてみた。

 

 

彼は浴室での出来事を、細かく説明してくれた。

 

「浴室に入ったら、しわしわの蛇をぶらさげたおやじたちがそこらへんをウロウロしていたんだ。僕は恥ずかしいから小さなタオルで一生懸命身体を隠していたのに、僕以外誰も隠していなかった。」

 

しわしわの蛇・・・・。

うん、それで?

 

「僕がバスタブに入ると、遠くで湯につかっていたひとりのおやじが近づいてきて、日本語で話しかけてきた。

僕はわからないからただ聞いていただけだったんだけど、おやじは他のおやじたちも巻き込んで喋り出して、みんなでがっはっはと笑い出したんだ。分からないけど僕もとりあえず笑ってみた。」

 

 

(笑)

そうか。初めての銭湯楽しかった?

 

 

 

「うーん。やっぱりさ、日本って変だね。

僕は銭湯も温泉ももういいや。今日で終わり。」

 

 

 

 

九州のおやじたちに囲まれ(しかも無数のしわしわ蛇を毎秒目にしながら)、暑い湿った空間に1時間以上監禁されていたロキオは疲れてしまっていた。

しかも湯が熱すぎて最後の10分はずっと水風呂で身体を冷やしていたとのこと。

 

 

 

 

カナダ生まれカナダ育ちのロキオ。

どうも初回はこの国の素晴らしいお風呂文化を楽しめなかった様子。

 

 

 

しかしそんな彼に第2のチャンスが訪れた。

わたしの叔父と叔母が熊本の阿蘇でペンションを経営しており、

そこに母と彼と3人で訪れた時のこと。

彼らのペンションは黒川温泉から徒歩10~15分という

なんとも贅沢な場所にあるため、

わたしたち2人は温泉グッズをリュックに詰め込み、

徒歩で黒川温泉地区に向かった。

 

 

緑に囲まれた、古い趣のある温泉街を歩いているうちに、ロキオの温泉への期待は高まっていた。

福岡の銭湯でのことはすっかり忘れている。

それもそのはず。阿蘇の美しい自然と広大な景色。

耳を澄ますと聞こえる野鳥たちの声。

叔父叔母たちが一から建てた木造のロッジと、素朴で可愛らしいインテリア。

魅力ありすぎるので詳しくはこちらの記事で。ほんとここ最高・・・(ため息)。

全員行ってほしい。

mrsvvann.hatenablog.com

 

「ポーランの笛」(わたしの叔父叔母のペンション)はこちらから閲覧・宿泊予約できます。↓

https://www.facebook.com/polannofue/

 

いわゆるシティーボーイのロキオは、

目をキラキラさせながらあたりをくまなく探索していた。

 

 

 

 

ようやくいくつかある温泉のうちひとつに決め、中へ入る。

ロキオは今回、不安気な様子もなくサッと男湯に続く廊下をずんずん進んでいった。

わたしも女湯へ向かう。

 

 

存分に温泉を満喫した後、わたしはマスカットサイダー(瓶)を飲みながらロビーに向かった。

ロキオがいる。

 

 

温泉、どうだった?

おそるおそる聞いてみた。

 

 

「はぁ~気持ちよかった。温泉 IS AMAZING!!!」

 

ロキオは満足げな顔で言ってのけた。

 

 

 

わたしたちが行ったのがちょうど熊本地震の2か月後だったということもあり、

人がほとんどいなかったため、ロキオはひとり露天風呂を心ゆくまで楽しんだようだった。

 

「お湯が肌の上を滑るようにスムーズで、

森と湧き出る温泉の香りでとても癒されたしリラックスできたよ!」

 

 

銭湯デビューの時とはうってかわって、若手の女レポーターのような口調で温泉への感動を語っていた。

これにて、ロキオの温泉文化へのイメージは払拭された(と願う)。

阿蘇の自然よ、ありがとう。

 

 

すっかり温泉大好きになったロキオはその後も何度か九州各地の温泉を訪れ、

日本を去るころには平気で大衆向けの銭湯に入れるまでに成長していた。

 

今では例の福岡しわしわ蛇事件もネタにして、

会う人会う人に面白おかしく自分の経験を語っている。

 

 

 

ロキオの様子を終始見守りながら、

 

日本以外のほとんどの国の人たちにとって、温泉・銭湯文化はきっと不思議でしょうがないものなんだろうな、と彼らの視点に立って考えてみた。

 

だって普段服を着てすました顔で表を歩いている他人同士が、突然素っ裸でバスタブを共有し、時にとなりに座って世間話をし、そして何事もなかったかのように「あ~気持ちよかった」と服を着て帰っていく。

しかも「世界一シャイな人類」である日本人がそれを平気でやっているというのがさらに謎であろう。

 

 

ロキオと一緒になってから特に思う。日本って不思議な国だなって。

そのミステリアスさにはまって日本を何度も訪れる外国人が多いのも分かる。

 

 

 

 

ロキオの温泉デビュー記。

次日本に行くときは、草津か道後か湯布院か?

 

わたしの密かな夢は、ベタながら温泉で浴衣来て卓球。

または浴衣来て旅館飯+日本酒・・・。ふふふ。

その時はまたレポートします。

 

 

 

☀おしまい☀

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