白い毛
先日、ロキオの右眉から長い白い毛が生えていた。
彼の眉毛は、とにかく黒くて太い。
西郷隆盛とMr.ビーンの隣に並んでも負けないくらい、濃い。
その日はその深い茂みから、ひょろひょろと申し訳なさそうな白い毛が一本顔を出していた。
なぜその一本だけ他の毛の2倍も長いのか。
2015年に初めて彼と会ってから結婚して3年が経とうとしている今まで一度も、彼の眉毛に白髪を発見したことはないというのに。
なぜ今頃になって生えてきたのか。
こんなに長いということは、人知れず育っていたとしか思えない。
いきなり生えてきてこんなには成長しないはずだ。
しかも上から根元までしっかり白だった。
昨年12月に三十路を迎えたロキオ。
歳をとるとはこういうことなのか。
まぁいい。
とにかく気になるので、
彼に「眉に白髪あるからぬくよ〜!」と一言断って、右眉に手を伸ばした。
何するのさ!僕のMAYUGEに!!
彼は顔をしかめ、わたしの手を払った。
????
眉毛に生えた白髪。
しかも長くて目立つ白髪。
はて??
抜いてほしくない理由がとくに思い浮かばなかった。
彼は相変わらず、
Don’t touch my MAYUGE!!!
とリピートしながら逃げ回っている。
別に彼の右眉に白い毛が生えていようがいまいがどうでもいいといえばどうでもいいのだが、目についたらずっと気になってしまう。
2秒くらいジッとしてもらえれば親指と人差し指でつかめるくらい長いのだが、どうしても取らせてくれない。
I AM BEAUTIFUL AND PERFECT!
DON’T NEED TO CHANGE!
(俺はこのまんまでイケてるし完璧やから変わる必要はない!)
と、自己肯定を煽る応援ソングみたいなセリフを連呼しながら、大きな手で右眉を隠しながら、素早く走り回る。
たかが白い毛1本のために、わたしたち2人は狭い室内で激しい攻防を繰り広げる。
やがて2人とも攻防に飽きた。
夜も深まってきたのでベッドにごろんと横たわった。彼は携帯で友人に変な画像を送りつけている。
今だ!!!!!!!
わたしは彼の顔をふにふにするフリをして、さっと白毛を掴んで思い切りひっぱった。
プチっ!
痛そうな音がした。
Oh my gooooooood~~~~!!!!!!
What did you just do?!?!?!?!
(何してくれるんだ!!!)
ついに、わたしはその白い毛を抜いた。
彼は大げさに嘆いている。
わたしは満足し、嘆く彼が面白くて横で笑い転げた。
もう口聞かないやい!ぷん!と背を向けるロキオ。
ロキオは怒ったふりをするのがすきだ。
白い毛にそんなに愛着があったわけでもなかろうに、わざとらしくわたしを睨みつけている。
こういう時は、放置に限る。
スネ夫・スネ子はとにかく放置するといい。
しばらくお互い無言で寝転がって携帯をいじっていたが、しばらくして彼がすり寄ってきた。
へへへ。単純なやつ。
そして小声でささやいた。
「ねぇねぇ、左のMAYUGEには白生えてない?」
ぷ・・・
っぷはははは!
わたしがこらえきれず吹き出すと、ロキオも一緒になって笑った。
「どれどれ、左まゆげもチェックしたろうか」
わたしはわざと真剣な面持ちで、彼の左眉をまじまじと見つめた。
***おしまい***